野鳥

【カラス被害】カラスによる夏野菜被害と対策|ハシブトガラス・ハシボソガラス

 日本には約10種類のカラス類が分布(渡り鳥も含む)していますが、主に農作物被害が問題になるのはハシブトガラスとハシボソガラスの2種類です。ハシブトガラスは体長が大きく嘴が太く湾曲しており、ハシボソガラスは体長が一回り小さく嘴が細いカラスです。本記事では、カラスの夏野菜被害の特徴と対策について紹介します。

記事の内容

・カラスによる夏野菜被害の特徴

・被害対策方法

日本に生息するカラス

日本に生息するカラス

 日本にはカラス属が5種(ハシブトガラス・ハシボソガラス・ミヤマガラス・コクマルガラス・ワタリガラス)、ホシガラス属が1種(ホシガラス)・カササギ属が1種(カササギ)、カケス属が2種(カケス・ルリカケス)・オナガ属が1種(オナガ)の合計10種類のカラスが分布(渡り鳥も含む)しています。

 このなかで主に農作物被害が問題となるのはハシブトガラスハシボソガラス2種類です。

ハシブトガラス

 ハシブトガラスCorvus macrorhynchos)は留鳥または漂鳥として小笠原諸島を除く全国に分布し、市街地・農耕地・林・海岸・高山帯(夏季)など様々な環境に生息します。雑食性で、動物の屍体から人間の残飯など幅広い食物を採食します。

 『カァカァ』と澄んだ声で鳴きますが、濁った声も出すことがあります。秋から冬にかけては数百羽から数千羽の大群となり、集団ねぐらを作ります。

ハシボソガラス

 ハシボソガラスCorvus corone)は留鳥として九州以北(沖縄ではまれな冬鳥)に分布し、農耕地や市街地・河原・海岸などに生息します。雑食性で主に果実や昆虫類などを採食します。鳴き声は『ガァガァ』と濁った声で鳴きます。

ハシブト・ハシボソガラスの見分け方

 ハシブトガラス嘴は太く上嘴は大きく湾曲し、基部には羽毛が生えています。額は盛り上がり丸みがあります。ハシボソガラス嘴はハシブトガラスよりも細く上嘴はやや湾曲し、基部から上嘴の半分まで羽毛が覆うように生えています。

カラスの農作物被害

カラスによる農作物被害金額

 カラスによる農作物被害金額は果樹や野菜を中心に年間約14億円発生しています(農林水産省HP)。家庭菜園であってもカラスが好む果樹や野菜を栽培する場合にはカラス対策が必要です。

農林水産省HP(全国の野生鳥獣による農作物被害状況について)より作成.

カラスの被害にあう夏野菜

 カラス類の被害にあう主な夏野菜にはスイカ・メロン・キュウリ・ナス・トマト・マメ科(インゲン・ソラマメ等)などがあります。また、穀類ではトウモロコシにカラス被害が発生します。芽生えした苗を引き抜き、種子の部分を食べられる被害も発生します。

カラス被害の特徴

 カラスは嘴でつついて食害するために、食害跡には『V字』のような切れ込みが特徴的です。トマトなどカラスが運べる夏野菜は屋根の上などの安全な場所で食べることもあります。全てが食べられることは少なく、一部のみ食べられて残されていることが多いです。

被害対策方法

 被害対策方法には防鳥ネットなどで農地全体を守る方法と、カラスの被害を受けやすい作物のみを守る方法があります。対策にかけられる費用や設置・維持管理のコストを考えて防除手法を考えることが重要です。

農地全体を守る

 農地へのカラスの侵入を防ぐ方法として侵入防止効果が高いものは、防鳥ネット等で農地全面を囲う方法です。しかし、費用や設置の手間がかかる等のデメリットがあります。また、定期的に防鳥ネットのメンテナンスが必要です。

  • 農地への侵入防止効果が高い
  • 面積が大きくなると費用や設置の手間がかかる
  • 定期的に防鳥ネットのメンテナンスが必要

防鳥ネット

 最もシンプルで効果が高いのは防鳥ネットで農地全体を囲う方法です。しかし、設置に手間やコストがかかること、維持管理などのメンテナンスが必要などのデメリットがあります。

テグス

くぐれんテグスちゃん

 『くぐれんテグスちゃん』は農研機構が果樹園のカラス対策を想定して開発した被害対策方法です。防鳥ネットと比較すると安価で、脚立等を用いずに設置することができます。農研機構のHPではくぐれんテグスちゃんのマニュアルが公開されています。

農研機構HP(くぐれんテグスちゃん)

くぐれんテグスちゃん

被害を受けやすい作物のみを守る

 農地全体を防鳥ネット等を設置する場合は費用や設置の手間がかかります。そのため、被害の受けやすい作物のみに防鳥ネット等を設置するとコストを抑えて設置の手間を減らすことができます。しかし、防鳥ネット等が邪魔になり農作物の管理や収穫がしづらくなるなどのデメリットもあります。

  • コストが安い
  • 設置の手間が少ない
  • 農地全体の防除ができない
  • 農作物の管理や収穫に手間がかかる

防鳥ネット

寒冷紗(防虫ネット)

テグス

畑作テグス君

 『畑作テグス君』は農研機構が一般的で安価な資材を用いて、設置・撤去が短時間でできる侵入防止柵です。農研機構のHPでは畑作テグス君設置マニュアルが公開されています。

農研機構HP(畑作テグス君)

畑作テグス君

参考文献

  • 斎藤 博(2017).フィールド図鑑 日本の野鳥 第2版.株式会社 文一総合出版.
  • 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(2016).畑作物圃場へのカラス侵入を簡易に抑える「畑作テグス君」.(https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/narc/2015/15_093.html.html).
  • 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(2021).果樹園のカラス対策 簡易型「くぐれんテグスちゃん」標準作業手順書.(https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/naro/sop/143066.html).
  • 農林水産省.農作物被害状況.全国の野生鳥獣による農作物被害状況について.(https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/hogai_zyoukyou/).